美容室経営の現状とは〜業界の飽和問題について〜

美容室の経営を行う上で知っておくべき現状について

人気職業の美容師、美容室は増加傾向

小学生の「将来なりたい職業ランキング(女子児童)」のトップ10に入るほどの人気職業、美容師。その人気どおり、全国で美容師の人数は年々増え続けており、厚生労働省の調査によると2017年の統計で50万人を超えています。美容室の施設数は約25万店に達しており、コンビニエンスストア(コンビニ)の実に5倍に迫る店舗数で、現在も増加傾向です。

なぜ成長ではなく飽和といわれるのか

しかし、美容室業界は今、飽和状態で独立しても失敗するとの声もあります。なぜでしょう?それは、市場規模が縮小しているからです。美容業界の2017年の市場規模は1兆5049億円で、前年2016年よりも5,400億円減少しました。コンビニの2017年の店舗数は5万5,000店ですが、全店売り上げベースの市場規模(日本フンラチャイズチェーン協会統計)は10兆7000億円です。店舗あたりの必要経費は違いますが、いかに美容室が厳しい状況かわかるかと思います。もともと市場がそれほど潤沢ではなく、市場が縮小されている中で、美容師は増え続けている現実があります。料金の低価格競争の他、多くの美容師が少ないお客を奪い合う構図、いわゆる「パイの奪い合い」が年々激しさを増すばかりの厳しい状況といえます。

長時間労働と賃金の低下

美容師の数が増えているのに、売り上げは減る一方。必要経費が変わらなければ、その分働く美容師の賃金と労働時間に跳ね返ってきます。美容室の経営としては美容師の人数を減らして人件費を抑えることになりますが、その分一人当たりの労働時間が長くなります。売り上げが伸びなければ、労働時間が延びても収入は変わらないか、減る方向になるケースも考えられます。さきほどコンビニの売り上げを例に出しましたが、コンビニはアルバイトにより賃金を安く抑えることができます。しかし、美容師は専門の教育を受けて国家試験を合格しなければなることができない職業です。いわば国が認めた専門技術者です。その賃金を安く抑えることは望ましくないはずですが、美容師の長時間労働と賃金低下は現実の問題として今起こっていることであり、まさにブラック美容室といわざるを得ないケースも散見されるようになってきています。そうなると、美容師を辞めてしまう人も出てくることになり、負のスパイラルに陥るということは想像に難くないと思います。

美容室経営の現状:成功している美容室の集客力

一方で、経営が成功している美容室ももちろん存在します。業界全体の売り上げが減少し続ける中で、やはり効率よく集客力を高めた美容室が勝ち残ることになります。このような美容室はどのようにして集客力を高めているのでしょうか?

WEB、SNS活用による集客

集客する方法の第一は、やはり広告となりますが、新聞やテレビなどのマスメディアでは費用がかかります。そこで比較的低コストなWEBやSNSを活用することになります。WEBの代表例としては、HOT PEPPER Beautyやminimoなどの美容室検索ポータルサイトへの登録があります。2018年12月現在で、HOT PEPPER Beautyの参画サロン数は39,646店舗、スタイリスト数169,276人、年間ネット予約数55万件以上、minimoに登録しているサロンスタッフは4万人以上。もはやWEBの活用は当たり前、大手ポータルサイトのデータを見るだけでもWEBに登録しているだけでは埋もれてしまうというのがわかります。

美容室経営の現状:SNSをうまく使う

そこで重要になってくるのがSNSの活用です。Facebookやtwitter、LINEなどを駆使して、1人1人のお客に寄り添うことで、お客のリピート率を如何に上げていくかが重要となります。それは、髪の毛をカットする技術とはまったく別の要素となりますので、美容師個人の力量に頼るのではなく、美容室全体の経営としてシステム化していかなければならないと思います。どのビジネスにもいえることですが、集客するほどお客1人にかけられる時間は少なくなり、関係が希薄になってしまいがちです。SNSを駆使することにより、人と人のつながりを強くすることで、経営を安定化させるのです。

美容室経営の現状:採用に力を入れる

集客力と同等の重要性がある要素に、人材の採用があります。冒頭、美容師は増え続けていると書きましたが、全国の美容専門学校に通う学生数は2005年の約25000人から、2017年は約15000人と約40%減少しています。超少子高齢化となっていることを考えると、この減少傾向が覆る可能性は低いでしょう。さきほど書いたとおり、やめてしまう美容師が多くなっており、むしろ資金的な面よりも人材確保が困難となって閉店しまう例が少なくありません。集客しても美容師がいなければ、美容室は経営を継続できないのです。いかに美容師の人材を確保するかが重要です。そのためには、採用の際に美容学生に見せる経営ビジョンや待遇面を明確化することが重要となります。小規模の美容室であっても、美容師に対してキャリアプランや福利厚生をどれだけ見せられるかが鍵になると思います。

美容室経営の現状:実際の求人方法

では一体、どのようにして人材を採用すればよいのでしょうか?一般的に、企業が人材を採用する場合の手段として、主に以下の3つがあると思います。①求人サイトあるいは求人情報誌や自社ホームページでの人材募集掲載。②人材紹介エージェント、その他からの人材紹介(斡旋)、③知人オーナー等からの縁故採用(いわゆるコネ採用)。その中でも、最近はどの企業も①の方法で人材を採用しています。

求人サイトあるいは求人情報誌のメリットとデメリット

求人サイトあるいは求人情報誌に掲載する最大のメリットは、日本全国の美容師志望の人にその美容室の存在を知ってもらえる、ということです。さらに、求人サイトの場合は、掲載することで、Googleなどの検索エンジンで上位になりやすくなるため、広告的な役割も果たしています。多くの美容師志望者に求人を知ってもらうことで応募も多くなり、そのためより優秀な美容師を選抜することができるようにもなります。
 デメリットとしては、採用の決定有無に関らず、掲載した時点で費用が発生する、ということです。大手のポータルサイトになるほど、閲覧する美容師志望者の数も増えますが、同時に多くの美容室が求人広告を掲載するため、その結果情報が埋もれやすくなります。その結果、登録費用を支払っているにもかかわらず、結局求人情報が閲覧されないというリスクも発生します。求人サイトの掲載プランには、検索の上位になりやすい、広告の情報量を多くする、などのオプションがありますが、その分の料金がさらに発生します。そのあたりの投資価値判断が難しいといえます。

人材紹介(斡旋)のメリットとデメリット

人材紹介(斡旋)のメリットは、求人サイトなどと異なり、採用が決定してはじめて費用が発生するため、直接的な費用を抑えられるという点です。人材紹介のエージェントは、通常成果報酬型のため、紹介された美容師の採用が決定した時点でエージェントへの報酬が発生します。報酬も固定されているため、費用を計算しやすくなっています。ネットに求人情報を掲載する場合は、採用に至らなくても費用が発生するリスクが発生しますが、人材紹介にはそのようなリスクはありません。しかし、デメリットとして、人材紹介エージェントによって、美容師の登録数にムラがあり、条件があわず紹介に至らないケースも十分あり得るという点です。複数のエージェントを介して美容師を探すこともできますが、求人サイトよりも登録数が圧倒的に少ないこともあるため、採用を急ぐ場合には不向きの手段かもしれません。

縁故採用のメリットとデメリット

縁故採用のメリットは、採用費用が不要という点です。知人やスタッフからの紹介、美容師学校からの斡旋など、求人サイト登録料や紹介エージェントの手数料などのような費用はかかりません。知人といえども紹介料を払うケースはありますが、数万円程度が相場のため、低コストで済むことになります。また、事前にある程度の技術レベルや性格なども知ることができるため、採用後に職場になじめなかった、というリスクも求人サイトなどよりは少なくなります。
 しかしデメリットもあります。必ずしもいつも誰かを紹介してもらえるわけではないため、定期的な採用には不向きです。

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美容室経営の現状:ブランディングに力を入れる

美容師が増え続けているのに、売り上げ(お客)は減少傾向、パイの奪い合いを制するには、集客力や美容師の技術力が競合相手よりも上回るか、これまでになかった価値を生み出すかの、どちらかが必要です。そのどちらとも、差別化という意味では共通しており、それにより競合相手と識別されてお客に選んでもらう商品やサービスのことをブランドといいます。ブランドを構築することをブランディングと呼び、これから美容室が生き残っていくためには、ブランディングが重要だということになります。ブランディングは、自身のブランドアイデンティを一方的に提示するだけではできません。お客のニーズ、求めるイメージと一致させる必要があります。お客が何を求めているのか、カットなのか、カラーリングなのか、トリートメントなのか、スタイリングなのか、徹底的に知った上で、自身のアイデンティティと重ねていく必要があります。それには、接客時のコミュニケーションはもちろんのこと、今後はSNSはもちろん、AIやビッグデータ解析なども近い将来当たり前という世界がやってくるのではないでしょうか。

美容室経営の現状のまとめ

美容室経営の現状についてご紹介しました。市場規模が縮小傾向にあり、人材も含めた経営資源が限られている中、今後生き残っていくには、集客や人材確保でさまざまな工夫が必要となります。これは、美容室に限った問題ではなく、日本のどの業界でも同じ状況になっており、働き方改革が急務となっています。美容室も今後、働き方改革を推進し、達成したところが生き残っていく世の中になるのかもしれません。ぜひ、美容室経営の効率化、システム化、そして新しい価値を生み出していただければと思います。