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これからの美容室経営は、ますます厳しさが増す
今現在、美容室経営をしている方、またはこれから美容室経営を考える方にとって、美容市場の未来は非常にシビアであるとお伝えしなくてはなりません。現状においてもサロン数は人口に対してすでに飽和状態であり、ここ数年は毎年、9000以上の店舗が閉店しています。この事態は美容室の経営規模の大小とは関係ありません。2017年には、超有名大手サロンの「HAIR DIMENSON」倒産というショッキングなニュースが話題になったことを覚えている方も多いのでは。ところがこれだけ閉店する美容室があるにもかかわらず、美容室の総数は毎年3000店舗も増え続けています。日本国内の美容室の数は、なんとコンビニ全チェーン店の4倍にものぼるのです! 市場のさらなる飽和に加えて、人口減少・高齢化が進み、低所得層が増えていくことにより、美容業界の将来は暗澹としています。安易に美容室経営に乗り出せば、数年後には倒産に追い込まれ多大な負債を追う可能性が非常に高い、という事実を肝に銘じなければなりません。それでもなお、美容室経営の継続、あるいは新規参入を考えるならば、現状をしっかり分析したうえで、これからの美容室経営には何が必要なのかをしっかり理解し、周到に準備することが必須です。
これからの美容室経営の現状は非常に厳しい
平成27年度3月末に厚生労働省が発表した調査によりますと、国内の美容院数は23万7,525施設で前年度比1.5%増加しています。厚生労働省は、こうした近年の「店舗過剰」のほか、「低価格化」や「客数の減少」が美容業界の利益減少の要因になっていると分析。これらの要因の中でも「客数の減少」が経営上の最大の問題とも指摘しています。実際「1日平均客数別、経営主体別施設数の構成割合」を見ると、平日の1施設当たりの平均客数は10.0人で、5割強の施設では、1時間に1人の利用客がいるかどうか、という状況です。もちろん繁盛しているチェーン系の大型店舗からオーナー美容師がひとりで営業しているお店まですべて含めての結果ではありますが、この数字を見ただけで「思った以上に厳しいな……」と感じるのではないでしょうか。それでも今後もなお店舗が増えていくなか、客を取り合うことで、集客のために施術料の値下げ競争も激化し、これまで通りのやり方では、ますます利益率はダウンしていくと予想されるのです。
これからの美容室経営が厳しい理由3つ
美容室経営が他の業種に比べてシビアな理由は、市場の飽和以外にも大きく3つ考えられます。
1つめは、前述の通り売り上げの悪さです。抱えるスタッフ人数に対し、来店客の数が伸びないために人件費が経営を圧迫しています。また、センスの良さをアピールできるサロンのイメージ形成のためには、店舗づくりにもお金がかかります。さらに、サロンは交通至便な場所に店舗を構える必要があり、当然テナント料は高くなります。また、カット・カラー・パーマなどの定番の美容施術だけでは、他店競合を考えても客単価を今以上にアップさせるのは実際問題、難しいという点も問題です。
2つめは、人材の定着率の悪さです。技術者を募集して採用しても、その8割は5年以内に退職してしまう、というのが美容業界の常識です。アシスタントとして採用し、手とり足取り技術を教えて育てても、スタイリストになったとたんに辞めてしまうケースのなんと多いことか。従業員の採用と育成には、たくさんの経費が必要です。実際、頻繁に従業員が退転してしまう店舗では、採用・育成のための広告・教育経費などが経営を大きく圧迫します。
3つめは、美容室経営者の多くに経営の知識がないという点です。美容室経営者の多くは、美容師です。技術を磨き、自分を指名する顧客が増えてくると自分のサロンを持ちたくなりますが、美容室経営のためには、美容師としての技量だけでなく、経営者としての技量も必要なのですが、そこを見逃して安易に開業してしまうケースが非常に多いのです。いくら技術が優れた美容師でも、集客ノウハウや人材管理、コスト計算などの経営能力がないオーナーでは、サロンを順調に維持していくのは困難です。
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これからの美容室経営は、発想の転換が必要
ではこれからの美容院経営に必要なものはなんでしょうか。第一に必要なのは今までの「当たり前」をゼロベースで見直す発想の転換です。「技術の高い美容師なら、美容室オーナーに向いているのか」からスタートし「ハイセンスで交通至便の場所にあるゴージャスな店舗は必要なのか?」、「数多くの技術者・アシスタントを抱え、どんどん店舗を増やすチェーン型サロンは成功するのか?」、「インターネットやSNSを利用して大きく宣伝を打ち、新規客を増やすやり方は正解なのか」など、美容業界では当たり前だった「美容室経営成功の条件」を経営者の視線でチェックしなおして、大胆な発想で改革していくことこそ必要です。
また美容室を、単なる美容室ではなく付加価値のあるサロンにしていくという新業態の発想も重要です。大手小売業のマルイは「物を売る店」から、飲食やシェアリングサービスなど「売らない店」を拡大させる方針を打ち出し、注目を集めています。美容室経営にもこの発想は有効で、カットやパーマなどの施術以外にも「行きたくなる理由(付加価値・利便性)」をプラスすることにより、集客力も利益率もぐっとアップしていくはずです。3か月に1度、来店する常連客が、週に1度施術以外(例えば物販、ミニ教室、SNSの写真撮影用などアイディアは様々)の目的で来店してくれるようになれば「ほんの少し伸びた髪のカラーリタッチ」や「前髪カット」、「トリートメント」、「写真投稿用のヘアセット」などの定番施術以外のサービス利用率も上がる確率が高くなります。
これからの美容室経営には、新規客開拓より常連客を離さない工夫が大切
開業したばかりのサロンであれば、従業員となった技術者が前の店から引き連れてきたファン(顧客)以外にも、新規客を積極的に開拓していくことが必要不可欠です。しかし、開店して数年たっても新規客開拓ばかりに力を入れるのは、経営を好転させる結果にはなりません。新規客獲得には、何らかの広告費が必要になりますし、割引クーポンなどを頻繁に出すことにもつながります。「クーポンなどがきっかけで、はじめて来店した客をどのように常連客に育てるか」そして「常連客をいかにして店から離さないようにできるか」に知恵を絞ることこそ、安定したサロン経営のポイントです。新規の客が1次的に増えても、2度目3度目の来店につながらない限り、経営は安定しないことを心に留め、常連客を離さないサロンづくりへの努力が欠かせません。
なお、これは従業員管理についても同様のことが言えます。採用に関わる経費を最小限にとどめ、従業員の退職による顧客の減少を防ぐためにも、技術とサービス力のある技術者をいかに定着させるかを熱心に考え、工夫することこそ経営の安定化につながります。
これからの美容室経営は増加する高齢者に着目せよ
ほとんどの人が、髪が伸びてくると理容店、美容院を利用します。しかし今後、人口減少により、顧客のパイは確実に減少します。また、高齢化によって「若いころほど身だしなみにお金や時間がかけられない(かけたくない)」、「そもそも美容院に行くのが大変」などの理由から、今後はますます美容院に自ら足を運ぶ人は減っていくでしょう。けれども、この高齢者に着目することで、美容室経営を安定化するヒントも浮かび上がってきます。病院や施設などに入っていたり、自宅にいても足が悪いなどで「美容院に行きたいけれど行けない」人を取り込む、訪問美容を行うサロン・技術者が少しずつ増えています。実際、訪問美容を行う美容師を「来るスマ美容師」とネーミングして盛り上げる動きもすでに出ています。メイクをしたり髪を整えたり、洋服に気を遣うなど、身なりに関心を持つことは認知症予防に効果的であるという調査結果が、医師らが集うアンチエイジング医学協会などから発表されている情報などを積極的に利用し、これまで若い女性をメインターゲットとしていた店づくりやサービスを高齢層にシフトすることにより、他サロンとの差別化がはかれると同時に、今後も増え続ける高齢者層の顧客を囲い込むことができるのです。
これからの美容室経営には逆転の発想の「アナログ化」にも注目
今や、美容院経営にはネット予約やInstagram、Facebook、lineなどのSNSを利用した集客が必要不可欠と言われています。また、シャンプーを完全自動で行うロボットが開発されたり、将来的には人工知能を有するAIマシーンが、カラーやカットも行うことが可能になるともいわれており、美容技術のデジタル化もどんどん進んでいます。しかしこうした時流に反して、小規模サロンの経営にとっては、逆にアナログ化が有効な例もあります。前述の高齢者はもちろんのこと、美容院に施術以外のスタッフとの会話や心遣いを楽しみに来ている(ストレス解消に美容院を利用する女性は少なくありません)常連客を取り込むためには、あえてアナログに徹して、効率や合理化を度外視した温もりのある人対人の交流を「売り」にするのも戦略のひとつといえるでしょう。
これからの美容室経営に「経営知識」は必要不可欠
今後の美容室経営に必要な考え方やアイディアをいくつか挙げてきましたが、最も重要なのは美容室経営者が経営のプロであることです。美容師オーナーが独立して開業するケースが多い美容業界で、閉店が多い・経営が大変な店が多い一番の理由はここにあります。サロンを安定して経営・運営することと、美容師としての技術力の高さにはまったく関係がなく、いくら素晴らしいスタイリストでも有能な経営者ではないケースは掃いて捨てるほどあります。美容師としてのキャリアを積み、開業を考えるのであれば、技術を磨く以上に経営技術を磨く必要があります。この厳しい現状で、サロン経営で成功するには、これ以外の方法はありません。「自分を指名して来店する顧客が十分増えた」、「開業資金のめどがついた」と感じたら、すぐに開業を決意するのではなく、じっくり経営知識を磨いてサロンオーナー(経営者)としての技量を身に着けることこそ、数少ない開業して成功する美容室経営者になる条件と言えます。